おびひろ動物園で起きているキリンの「引っ越し拒否」が注目を集めています。
最新の設備を整えた新獣舎にもかかわらず、キリンたちはなかなか足を踏み入れません。
その背景には動物の繊細な性格と、それに寄り添い続ける飼育員の努力があります。
この記事では動物行動学や飼育管理の視点から、この問題の本質に迫ります。来園者の目に見えない、動物たちと向き合う現場の現実を一緒に考えてみませんか
新獣舎完成後も移動しないキリンたち
新しい施設への移動が進まない理由
北海道帯広市にあるおびひろ動物園では、アミメキリンが新しい獣舎に入るのを拒むという事態が続いています。
新獣舎は夏に完成しており、既に季節は春を迎えようとしていますが、キリンたちは依然として旧獣舎にとどまっています。
キリンの警戒心の強さはよく知られていますが、ここまで長期にわたって移動を拒む例は珍しく、関係者も困惑しています
動物福祉に配慮したキリン館の設備
キリンのために新設されたキリン館は、冬の寒さをしのぎながら適度な運動ができるよう工夫されています。
個別の寝室が確保され、採光や換気にも最新技術が取り入れられています。
広さは旧獣舎の数倍にもなり、まさに快適な暮らしを支える空間です。
しかし、当のキリンたちはこうした変化に適応できていません。
扉の前まで来て立ち止まり、警戒して一歩も踏み入れようとしない様子が見られています
動物行動学に基づいた飼育対応
なぜキリンは警戒心が強いのか
キリンは野生環境で常に捕食者から身を守る必要があるため、非常に繊細で慎重な性格を持っています。
特に飼育下では、環境の変化に対するストレス反応が強く出やすく、新しい施設への移動は大きな心理的負荷となります。
床の質感、臭い、照明、音の反響など、人間にはわからない微細な違いが、彼らにとっては未知の恐怖につながるのです
キリンの個体差と適応の難しさ
今回新獣舎への移動を拒んでいるのは二頭のアミメキリンです。
それぞれの個体が異なる性格や経験を持っており、過去の環境変化に対する記憶が移動を妨げている可能性もあります。
特に高齢のキリンは新しい場所への適応が難しい傾向があり、一度警戒心を抱くと、それを取り払うには長い時間と丁寧な対応が求められます
飼育員が試みるさまざまな工夫
自然な移動を促すトレーニング
飼育員たちはキリンに無理やり移動を強いるのではなく、自発的な行動を促す方針をとっています。
そのために、入口付近に好物を置いたり、旧獣舎の敷物を新獣舎に持ち込んだりと、キリンが安心できる環境を作る工夫が行われています。
また、毎日の習慣の中に少しずつ新しい刺激を取り入れ、興味や慣れを誘導するトレーニングが繰り返されています
冬期間に訓練が進まなかった事情
北海道の冬は厳しく、積雪や低温によってキリンの屋外活動が制限されます。
そのため冬の間は十分なトレーニングを行うことが難しくなり、結果として移動計画に遅れが生じました。
春以降に再開された誘導訓練も、キリンの緊張が解けるにはまだ時間がかかる状況です
来園者との関係と情報共有の工夫
展示再開への影響と園の対応
当初は春の営業再開とともに新獣舎での展示を開始する予定でしたが、キリンの移動が叶わなかったため、旧獣舎での展示が継続される見込みです。
このような事情を来園者にも丁寧に伝えるため、園内の掲示物やホームページでは現在のキリンの状況や飼育方針が詳しく紹介されています。
動物の心理的な健康を尊重する姿勢は、来園者の理解と共感を得つつあります
教育と啓発を担う動物園の役割
おびひろ動物園では、単に動物を「見せる」施設ではなく、動物の生態や個性、飼育に関わる課題を発信する教育の場としての役割も重視しています。
今回のキリンの件も、動物の行動に対する正しい知識を広める機会として位置付けられており、講座や展示を通じて来園者に広く伝えています
動物との信頼関係を築くということ
時間をかけて向き合う姿勢の重要性
動物飼育の現場では、個体ごとの違いを尊重しながら信頼関係を築くことが何よりも重要です。
特に長寿で繊細なキリンのような動物には、時間をかけて丁寧に対応する必要があります。
おびひろ動物園ではその姿勢が徹底されており、目先の展示効果よりもキリンの安心と安定を優先しています
動物福祉を支える専門知識と経験
今回の対応には、動物行動学、飼育技術、施設設計など多くの専門知識が関わっています。
また、現場でキリンを観察し続ける飼育員の経験や勘も大きな役割を果たしています。
専門家によるアドバイスや過去事例の研究も参考にされながら、現実的な対応が日々模索されています
今後の見通しと動物園の展望
キリンたちの変化を見守る姿勢
今後もキリンたちが新しい環境に慣れるまでには時間がかかると予想されます。
飼育員たちは引き続き無理のない誘導と観察を続け、少しずつ環境に慣れてもらう方針です。
キリン自身が納得し、安心して移動できるようになることを最優先に、状況に応じた柔軟な対応が求められます
おびひろ動物園が目指す未来の姿
おびひろ動物園は、動物福祉と教育普及を両立させる施設として今後も進化を続けていきます。
今回のような課題はその一歩であり、動物と真摯に向き合う文化を地域に根付かせる契機ともなります。
来園者にとっては、動物たちの行動の裏にある「心」に触れる貴重な機会とも言えるでしょう
まとめ
- キリンは新しい環境に対する警戒心が、非常に強いです。
- 新獣舎は快適に整備されていますが、適応が進んでいません。
- 飼育員は無理をさせず、自然な移動を促しています。
- 冬季の寒さが、訓練遅延の一因となりました。
- 園は情報を丁寧に公開し、来園者の理解を促しています。
- 今後も、キリンのペースに合わせた支援が続けられます。
