事件の概要と発覚の経緯
福岡県警第二機動隊は北九州市に拠点を置き、約20人が所属するスクーバ部隊を擁している。この部隊は水難事故の救出救助、水中への転落車両の捜索、事件証拠品の水中捜索など高度な専門性を要する任務を担当する。
今回発覚したいじめ行為は2023年以降に発生したとされ、特定の隊員が標的にされていた。具体的には飲み会後に寮で全裸にさせられる行為、真冬の時期にプールへの入水を強要される行為などが確認されている。県警関係者によれば、これら以外にも複数のいじめ行為が部隊内で行われていたという。
福岡県警監察室は事実関係の調査を進め、加害者とされる隊員だけでなく、適切な監督責任を果たさなかった当時の上司も含めて十数人を処分対象としている。処分内容は懲戒処分と監督上の措置の両方が検討されており、組織としての責任を明確にする姿勢を示している。
時系列で見る事件の展開
スクーバ部隊内でいじめ行為が始まる。特定の隊員が標的とされ、飲み会後の全裸強要などが発生。2023年冬季
真冬のプールへの強制入水など、より悪質な行為がエスカレート。被害隊員は精神的苦痛を訴えるも組織内で十分な対応がなされず。
2025年前半
被害者からの内部告発または第三者の通報により、県警監察室が調査を開始。複数の関係者から事情聴取を実施。
2025年11月27日
報道機関により事件が公表される。県警監察室は「調査結果を踏まえ厳正に対処する」とコメントを発表。
いじめ発生の背景要因
警察組織、特に機動隊のような特殊部隊では、伝統的に厳しい上下関係と団結を重視する文化が存在する。スクーバ部隊は水中という特殊環境での活動を要するため、隊員間の信頼関係と連携が不可欠とされる。しかしこうした特性が、時として閉鎖的な環境を生み出し、不適切な指導や悪質ないじめを正当化する土壌となる場合がある。
約20人という比較的小規模な組織であることも、外部の目が届きにくく内部告発のハードルを高める要因となった可能性がある。被害者は組織内での孤立を恐れ、長期間にわたり被害を訴えられなかった可能性が指摘されている。
また飲み会という非公式な場での行為が多かったことから、加害者側に「悪ふざけ」「伝統的な儀式」といった認識があった可能性も考えられる。しかし全裸強要や寒中でのプール強制参加は明確なパワーハラスメントであり、刑事責任を問われる可能性もある行為である。
SNSと世間の反応
報道後、SNS上では警察組織内でのいじめ問題に対する批判が相次いだ。「市民を守る立場の警察官がいじめとは情けない」「閉鎖的な組織の典型例」「被害者のケアが最優先」といった声が多数見られた。
一方で警察OBや現役警察官とみられるアカウントからは、「一部の問題を組織全体の問題と混同すべきでない」「厳しい訓練環境と いじめは区別が必要」といった意見も出ている。ただしこれらの意見に対しては「厳しさといじめを混同している」との反論も多く寄せられた。
被害者への同情の声とともに、「なぜもっと早く告発できなかったのか」という疑問も呈されたが、組織内での立場や将来のキャリアへの影響を考えれば告発が困難であったことは容易に想像できるとの理解も広がっている。
専門家視点での分析
労働問題に詳しい専門家は、今回の事案を「典型的な閉鎖組織でのパワーハラスメント」と分析している。警察組織は階級制度が明確で命令系統が厳格であるため、上位者からの不当な要求に対して拒否することが極めて困難な構造を持つ。
特に問題視されるのは、加害者だけでなく上司も処分対象となっている点である。これは組織として、管理監督責任の不履行を認めたことを意味する。適切な管理が行われていれば、いじめ行為は早期に発見され防止できたはずだと指摘されている。
また全裸強要という行為は、刑法上の強要罪や暴行罪に該当する可能性があり、懲戒処分だけでなく刑事責任を追及すべきとの声もある。真冬のプール強制参加も、健康被害のリスクがあり傷害罪の適用も検討される余地がある。
組織改革の観点からは、内部通報制度の実効性確保、第三者機関による定期的な職場環境調査、ハラスメント研修の徹底などが必要とされる。
警察組織での類似事例との比較
警察組織内でのいじめやパワハラ問題は、残念ながら全国的に散見される。2022年には愛知県警で新人警察官へのいじめが原因とされる自殺事案が発生し、組織的な隠蔽体質も問題視された。この事案では上司による暴言や過度な叱責が長期間続いていた。
2021年には大阪府警で、柔道の特練部隊において後輩隊員への暴力行為が発覚している。加害者は懲戒免職処分となったが、組織としての再発防止策が不十分だったとの批判も受けた。
今回の福岡県警の事案は、全裸強要という性的羞恥心を伴う悪質性の高い行為が含まれる点で、過去の事例と比較してもより深刻である。また真冬のプール強制参加は身体的危害のリスクも高く、単なるパワハラを超えて傷害行為に近いと評価される。
これら類似事例に共通するのは、閉鎖的な組織文化、不十分な内部通報制度、管理監督者の認識不足である。構造的な問題として捉え、全国的な改革が求められている。
注意すべき点と今後の対策
職場でのいじめやパワハラを受けた場合、できるだけ早期に記録を残すことが重要である。日時、場所、行為の内容、目撃者の有無などを詳細にメモしておく。可能であれば録音や写真による証拠保全も検討する。組織内の相談窓口だけでなく、外部の労働相談機関や弁護士への相談も選択肢となる。警察職員の場合は、各都道府県の人事委員会や公平委員会への申立ても可能である。
■ 組織が実施すべき再発防止策
定期的な職場環境アンケートの実施と、匿名性が保証された内部通報制度の整備が不可欠である。特に機動隊のような特殊部隊では、外部の第三者機関による定期監査の導入も検討すべきである。
全職員へのハラスメント研修を義務化し、特に管理職には管理監督責任の重要性を徹底する。また被害者保護の仕組みとして、通報者への不利益な取扱いを厳格に禁止するルールの明文化が必要である。
よくある質問
A: まず所属組織内の監察部門や相談窓口への相談が考えられますが、組織内での解決が難しい場合は、都道府県の人事委員会、公平委員会、または外部の労働相談機関、弁護士への相談も有効です。証拠を残しながら複数の窓口に相談することが重要です。
A: 直接的な加害行為を行った隊員には懲戒処分が検討され、重大な場合は懲戒免職もあり得ます。また適切な管理監督を怠った上司には監督上の措置として戒告や減給などが課される可能性があります。組織として個人の行為だけでなく管理責任も追及する姿勢を示しています。
A: 特殊部隊は人数が少なく閉鎖的な環境であること、危険な任務を遂行するため厳格な上下関係が形成されやすいこと、外部の目が届きにくいことなどが要因として挙げられます。また団結や連帯を重視する文化が、時として不適切な行為を正当化する土壌になることもあります。
まとめ
警察組織という公共の信頼を担う機関での不祥事は、市民からの信頼を大きく損なう。今回の事案を契機として、閉鎖的な組織文化の改善、実効性のある内部通報制度の整備、第三者による監査体制の構築など、抜本的な組織改革が求められる。
被害者のケアと名誉回復を最優先としつつ、二度と同様の事案が発生しないよう、全国の警察組織が教訓とすべき事案である。
