婚活アプリを通じた出会いが一般的になる中、独身を偽った既婚者とのトラブルが後を絶ちません。
実は独身限定アプリでも既婚者の登録が問題化しており、法的責任を問う動きが活発化しています。
334万円の請求に対し55万円の賠償命令という司法判断が、オンライン婚活の在り方に一石を投じています。
この記事では婚活アプリでの独身偽装問題について以下の点を詳しく解説します:
- 大阪地裁が認定した法的責任の根拠
- 事件の経緯と裁判での争点
- マッチングアプリ利用時の注意点
大阪地裁判決の概要 独身偽装による賠償命令の内容
2025年12月1日に報じられた大阪地裁の判決は、婚活マッチングアプリにおける独身偽装の法的責任を明確にする重要な事例となりました。
事案の基本情報
☑ 交際期間: 2019年3月〜2020年11月
☑ 真実発覚: 2022年9月
☑ 提訴時期: 2023年10月
☑ 裁判所: 大阪地方裁判所
☑ 原告: 大阪府内在住30代女性
☑ 被告: 既婚男性(音楽活動従事)
☑ 利用サービス: 独身限定の婚活マッチングアプリ
☑ 請求金額: 334万円
☑ 認容金額: 55万円
☑ 主な争点: 貞操権侵害の成否
☑ 裁判所の判断: 独身偽装による権利侵害を認定
事件の経緯 出会いから判決までの詳細
婚活アプリでの出会いから法的紛争に発展するまでの過程を時系列で整理します。
2019年:出会いと交際開始
3月
- 女性が独身限定を掲げる大手婚活アプリに登録
- 男性から「いいね」を受け取りメッセージ交換開始
- LINEや電話でやり取りを継続
5月
- 約2ヶ月のやり取りを経て初対面
- 食事の後、女性宅で性的関係を持つ
2019年5月〜2020年11月:交際期間
- 新型コロナウイルス感染拡大の影響で会う機会が制限
- 男性の音楽活動の多忙さも重なり対面機会は限定的
- 2020年11月を最後に会う機会が減少
- その後自然に疎遠となる
2022年9月:既婚の事実が判明
- 男性の音楽活動に関するウェブサイトを閲覧
- 幼稚園児程度の年齢の子どもの写真を発見
- 女性が事実確認を求める
- 男性がLINEで「伝えとかなあかんかったよね申し訳ないです」と返信
- 妻子がいる既婚者であることが発覚
2023年10月〜2025年:提訴と判決
- 女性が大阪地裁に損害賠償請求訴訟を提起
- 2025年に判決(55万円の支払い命令)
法的争点 貞操権侵害とは何か
今回の判決で中心となった「貞操権」について、法的背景と判断基準を解説します。
貞操権の法的性質
貞操権は法律に明文の規定はありませんが、憲法13条の自己決定権から派生する権利として認められています。
- 定義: 性的関係を持つ相手を自ら決定する権利
- 法的根拠: 自己決定権の一部
- 侵害の要件: 欺罔(騙すこと)や強制により性的関係を持った場合
- 保護の趣旨: 個人の尊厳と自律的な意思決定の保障
今回の判決における判断
| 判断要素 | 裁判所の認定内容 |
|---|---|
| 偽装の意思 | 独身限定アプリへの登録自体が偽る意思の表れ |
| 因果関係 | 既婚事実を知れば性的関係を持たなかった |
| 権利侵害 | 判断機会を失わせた行為が権利侵害に該当 |
| 損害賠償額 | 55万円(請求額から大幅減額) |
原告と被告の主張 裁判での対立点
法廷では双方が異なる主張を展開しました。
原告女性側の主張
独身偽装の故意性
独身限定アプリに既婚者が登録すること自体、当初から未婚者であると偽る意思があったことの証明である。
自己決定権の侵害
既婚者であることを知っていれば、性的関係を持つことはなく、交際も継続しなかった。重要な判断材料を隠されたことで、自己決定の機会が奪われた。
被告男性側の反論
既婚事実は認める
妻子がいることは認めた上で、関係の性質について争う。
関係性の認識
デートもせず性交渉だけの関係であり、女性もそのことを了解していた。
法的評価
権利侵害には該当せず、自由な恋愛の範囲内である。
裁判所の判断
大阪地裁は女性側の主張を基本的に認め、独身限定アプリへの登録行為が偽装意思の証明となり、女性から判断機会を奪った行為が権利侵害に該当すると判断しました。
マッチングアプリトラブルの現状と対策
今回の判決を踏まえ、婚活アプリ利用者が注意すべき点をまとめます。
主なトラブル類型
| トラブル種類 | 具体的内容 | リスクレベル |
|---|---|---|
| 既婚者偽装 | 独身と偽る既婚者との交際 | 高 |
| プロフィール詐称 | 年齢・職業・年収等の虚偽 | 高 |
| 金銭トラブル | 投資勧誘やロマンス詐欺 | 中〜高 |
| 個人情報問題 | 写真や連絡先の不正利用 | 中 |
| ストーカー被害 | 交際後の執拗な接触 | 中 |
実践すべき対策
本人確認の徹底
- 公的証明書による本人確認
- ビデオ通話での顔確認
- SNSアカウントでの実在確認
情報管理の慎重性
- 初期段階では詳細な個人情報を開示しない
- 自宅住所は交際が深まるまで教えない
- やり取りの記録を保存する
第三者との情報共有
- 信頼できる友人や家族に相手の情報を伝える
- 初回の会う場所を事前に共有
- 昼間の公共の場所で会う
直感を重視
- 違和感があれば関係を進めない
- 急速な関係進展には警戒する
- 金銭要求があれば即座に断る
よくある質問 婚活アプリトラブルのQ&A
婚活アプリ利用に関する疑問について、法的観点から回答します。
Q1: 既婚者が婚活アプリに登録することは法律違反ですか?
A1: アプリの利用規約違反にはなりますが、それ自体が刑法上の犯罪になるわけではありません。ただし、相手を欺いて性的関係を持った場合、今回の判決のように民事上の損害賠償責任が発生する可能性があります。
Q2: どのくらいの期間で損害賠償請求権は消滅しますか?
A2: 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年です。今回のケースでは発覚から約1年後に提訴されており、十分時効内での対応となっています。
Q3: マッチングアプリ運営会社に責任を問うことはできますか?
A3: 運営会社が本人確認を適切に行わなかった場合や、既婚者の登録を把握しながら放置していた場合は、運営会社の責任も問える可能性があります。ただし多くのアプリでは利用規約で責任範囲を限定しており、立証には困難が伴います。
Q4: 今回の賠償額55万円という金額は一般的ですか?
A4: 権利侵害に基づく慰謝料は、交際期間、関係の実態、精神的苦痛の程度などを総合的に考慮して決定されます。貞操権侵害の慰謝料相場は数十万円から数百万円程度で、個別事案により大きく異なります。今回は請求額の約16%という結果になりました。
Q5: マッチングアプリを安全に利用するための最も重要なポイントは何ですか?
A5: 相手の情報を複数の方法で検証することが最重要です。公的証明書の確認、SNSでの実在確認、勤務先の確認など、複数の角度から相手の真実性を確かめてください。また、初期段階では個人情報を安易に開示せず、段階的に信頼関係を構築することが大切です。
まとめ 判決が示す今後の課題
大阪地裁の今回の判決は、オンライン婚活における信頼と責任の問題に一定の法的基準を示しました。
独身限定アプリでの既婚者偽装が明確に不法行為として認定されたことの意義は小さくありません。
判決の意義
法的側面
- デジタル時代における権利侵害基準の明確化
- アプリ規約違反と不法行為責任の関連性
- オンライン婚活における自己決定権の保護
社会的影響
- マッチングアプリ業界での本人確認強化の契機
- 利用者の自己防衛意識の向上
- 規約内容の見直しと透明性の向上
残された課題
賠償額の妥当性、アプリ運営会社の責任範囲、本人確認の実効性、プライバシー保護とのバランスなど、解決すべき課題は多く残されています。
テクノロジーが提供する出会いの機会と、人間関係における信頼の構築をどう両立させるか。この問いに対する答えは、利用者一人ひとりの意識と、業界全体の取り組みにかかっています。
今回の判決が、より安全で誠実なオンライン婚活環境の実現に向けた第一歩となることが期待されます。
