朝日新聞が、屋久島のウミガメを巡る記事で使用した写真を「生成AIによる加工が判明した」として取り消した。記事の内容自体に誤りはなかったものの、画像の一部が事実と異なる状態に変化していたという。メディア各社が生成AIを扱う機会が増える中、今回のケースは「AI加工の境界線」と「写真検証のプロセス」を問い直す象徴的な出来事になっている。本記事では、加工の経緯、報道の課題、AI時代に求められる検証体制を詳しく整理する。
生成AIで加工された写真が問題に 屋久島のウミガメ報道を朝日新聞が取り消し
朝日新聞は11月26日、10月3日付夕刊などで掲載した「ウミガメの子をタヌキが狙う」記事に用いた写真を取り消したと発表した。画像はウミガメ保護団体が提供したもので、撮影者が暗視可能カメラで撮影した動画から切り出した後、生成AIを用いて画質を鮮明化していたという。加工の過程でウミガメの向きなど一部が事実と異なる状態に変化したため、掲載取り消しの判断に至った。
■ 写真取り消しの基本情報
| 発表日 | 2025年11月26日 |
|---|---|
| 媒体 | 朝日新聞(10月3日付夕刊ほか) |
| 問題となった画像 | タヌキがウミガメをくわえる写真 |
生成AIで鮮明化され“事実と異なる部分”が発生した経緯
写真はウミガメ保護団体によって提供されたもので、もともとは暗視可能なカメラで撮影された動画だった。撮影者は動画から静止画を切り出した後、生成AIを活用し、ノイズ除去や被写体の強調を行ったと説明されている。
この処理そのものは近年多くの現場で行われており、低照度環境での撮影記録を補完する技術として広く使われている。しかし今回の加工では、ウミガメの首の角度や向きが変わるなど、元映像とは異なる形状変化が発生。結果的に「事実と異なる要素を含む画像」と判断され、新聞掲載の基準を満たさないとされた。
同じ保護団体の別写真を巡っては、共同通信も11月1日に加工を理由に配信写真を取り消していた。朝日新聞はこの事例を受けて再調査し、今回の取り消しに至ったと説明している。
つまり、問題は「生成AIを使ったこと」そのものではなく、「AI処理が元の事実を変えてしまったかどうか」にある。写真の持つ証拠性と、AIの補正能力がせめぎ合う象徴的なケースといえる。
編集局長コメント「再発防止を徹底する」
朝日新聞の編集局長は、「事実と異なる部分がある写真を掲載したことをおわびする」とコメントし、再発防止に向けて加工や生成の有無を確認する体制を徹底すると述べた。
報道内容自体に誤りはなかったが、「写真の証拠性」を重視する新聞において、画像の信頼性は記事全体の信頼と直結する。今回の取り消しは、報道現場にとって一つの警鐘ともなっている。
AI時代の画像検証はどう変わったのか 従来との違いを整理
これまで新聞社の写真検証は、「撮影機材の特定」「撮影者の確認」「画像加工の有無」の3点を中心に行われてきた。しかし生成AIの登場により、画像加工の可能性が大幅に広がり、検証すべき範囲も増大している。
特に今回のように、意図的な“偽造”ではなく、画質向上のための処理によって形状が変化するケースは、従来の検証では見落とされやすい。AIがピクセル補完を行う際、被写体の輪郭を自動生成するため、元画像に存在しない情報が混入する可能性があるためだ。
■ 従来の検証体制とAI時代の違い
| 項目 | 従来 | AI時代 |
|---|---|---|
| 加工の確認 | 露出・色調補正の範囲 | 輪郭生成・形状変化まで検証 |
| 検証範囲 | 撮影者・撮影機材 | AI処理ツール・生成工程の特定 |
| 誤認リスク | 限定的 | 事実変容の可能性が高まる |
深掘り:「写真の証拠性」を揺るがすAI技術 何が問題なのか
報道写真は、文章よりも強いインパクトを持つ。「一瞬の光景」を視覚化し、読者に直感的な理解をもたらす媒体である。そのため、写真に誤りがあった場合、記事全体の信頼が揺らぎかねない。
AIが行う補完処理は、時に「それらしく見える像」を自動生成する。この“もっともらしさ”が報道現場で最も危険とされる部分だ。写っていないはずのものが写ったり、角度が変わったりすることで、意図せず誤った印象を与えてしまう。
一方で、AIによるノイズ除去や暗視画像の補助は、野生動物調査や環境保全の現場では重要な技術でもある。今回の事例は「AIを使うべきか否か」ではなく、「使うならどう検証するか」が問われているといえる。
画像検証の流れ(AI時代の最新版)
① 撮影者・撮影機材の特定
→ ② 元データ(RAW/動画)の入手
→ ③ 加工履歴・使用したAIツールの確認
→ ④ 生成工程に事実変容がないか検証
→ ⑤ 必要なら専門家の分析を追加
→ ⑥ 公開前に再チェックしリスク判断
FAQ:今回の取り消しを巡る疑問
- Q1. 記事内容に誤りはあったのか?
A. 記事内容自体は正確とされ、誤りはなかった。 - Q2. なぜ写真だけ取り消された?
A. 生成AIの処理により形状が変わり、事実と異なる要素が発生したため。 - Q3. 意図的な捏造なのか?
A. 意図的な改ざんではなく、鮮明化のためのAI補正の過程で変化が生じたと説明されている。 - Q4. 他社でも同様の問題は?
A. 共同通信も同じ団体の別写真で、生成AI加工を理由に配信を取り消している。 - Q5. 再発防止策は?
A. 加工の有無確認、AI使用履歴の提出、画像検証の強化などが想定される。
まとめ表:今回の取り消しが示す課題
■ 取り消し問題の総括
| 発生 | AI補正により写真の一部が変化 |
|---|---|
| 影響 | 掲載取り消し・メディア信頼性への問題提起 |
| 背景 | AI普及による検証範囲の拡大 |
| 対応 | 検証体制の強化、再発防止策の策定 |
AI加工写真が示した「信頼の外側」 報道が向き合うべき本質
今回の取り消しは、生成AI技術が広がる中で、報道現場がどのように“視覚的証拠”を扱うべきかを強く問いかけている。AIは利便性と効率を向上させる一方で、事実をわずかに変えてしまうリスクを常に抱えている。
写真は記事の一部でありながら、読者の印象を大きく左右する。だからこそ、報道における写真の信頼性は、文章以上に慎重な検証が求められる。今回のケースは、AI時代における新しい「検証基準」の必要性を示す出来事となった。



