「新入社員は成果主義よりも年功序列を選びはじめている」──この驚きの調査結果が公表されました。36年もの調査の歴史の中で、成果主義が優勢だった構図が初めて逆転。果たしてこれを若者の「意識の保守化」と見なすべきなのでしょうか。
実際、アンケートに答えた若手社員の多くは「安定」「福利厚生」「給与水準」を重視しています。震災やコロナ禍を幼少期に経験した世代だからこそ、「守られる安心感」を求める声が強まっているのです。ある20代女性は「挑戦より福利厚生」を理由に企業を選ぶ同世代が増えている実感を語っています。
この記事では、その背後にある「価値観の変化」をひも解きながら、企業が取るべき戦略を整理します。読み終えたとき、成果主義 vs 年功序列という二者択一を超えた、新時代の人事制度のヒントを掴んでいただけるでしょう。
- 物語的要素:36年の調査史上初めて、新入社員が「年功序列」を成果主義より望むという結果が出た。
- 事実データ:2025年度調査で年功序列派が56.3%、成果主義派が43.6%を下回る。
- 問題の構造:Z世代特有の「不確実性への不安」が安定志向を強めている。
- 解決策:評価制度の二重化、福利厚生と成長機会の両立、エンゲージメント設計。
- 未来への示唆:「意識の保守化」ではなく「多様化戦略」へのアップデートが重要。
2025年度調査で何が起きたのか?
2025年、産業能率大学総合研究所が実施した新入社員調査で歴史的な変化が明らかになりました。1990年以来継続されてきた恒例のアンケートで、初めて「成果主義よりも年功序列を望む」という回答が過半数に達したのです。
項目 | 割合(2025) | 割合(2024) |
---|---|---|
年功序列希望 | 56.3% | 48.5% |
成果主義希望 | 43.6% | 51.5% |
終身雇用を望む | 69.4% | 66.2% |
すべては社会的不安から始まった
Z世代が就職を迎えるまでに経験したのは、リーマンショック後の就職氷河期の余韻、東日本大震災、長引くコロナ禍といった大きな社会の動揺です。特に幼少期に「生活基盤の脆さ」を体験したことが、彼らの価値観を“挑戦よりも安定”へと導いています。
年功序列や終身雇用は単なる「古い制度」ではなく、不確実な未来を前提にした「安心の仕組み」として精神的な拠り所になっているのです。
数字が示す安定志向の強まり
調査結果をさらに分析すると、「職務内容」「企業風土」よりも「福利厚生」「給与水準」を重視する傾向が浮き彫りになっています。
就職先選定要素 | 重視割合(2025) | 前年との差異 |
---|---|---|
福利厚生 | 56.4% | +4.2% |
給与水準 | 42.8% | +3.1% |
職務内容 | 29.7% | -2.8% |
なぜ年功序列だけが再び望まれるのか?
従来、年功序列は「非効率」「時代遅れ」と批判されがちでした。しかし今の若手にとっては「毎年着実に給与が上がる」という安心感が魅力になっています。
「年功序列への回帰を保守化と見るのではなく、『不確実性の強い時代における合理的な選択』と理解する必要があります。安定志向と成長志向をどう両立させるかが、これからの人材戦略の核心です。」
SNSと情報拡散が後押しする安心志向
現代的な側面として、SNSによる情報比較の影響があります。就活生は口コミサイトやSNSで「福利厚生」「働きやすさ」について徹底的に調べます。失敗を避けたい心理が、「とにかく安定して長く働ける企業」を選ぶ理由を強めています。
企業や政府はどう対応すべきか
企業だけでなく政府も「多様な働き方」に対応する制度整備を進めています。働き方改革関連法により残業規制が強まり、社会保険適用も拡大。企業は評価制度を二層化し、成果主義と年功的待遇を併存させる「ハイブリッド型」を模索する局面にあります。
安定と挑戦を両立させる未来へ
冒頭で紹介した「年功序列の復権」という出来事は、単なる価値観の後退ではなく、不安定な時代に適応する合理的な進化の表れでした。企業がすべきことは、この変化を否定することではなく、新しいバランスを生み出すことです。
若手社員が求める「安定した基盤」と「成長の実感」を両立させた環境をぜひ構築してほしい。成果か安定か、二者択一に縛られない人事制度こそ、変化の時代を生き抜く鍵になるでしょう。
未来を切り開くのは、「安心して挑戦できる社会」を作れるかどうか。その挑戦が、今始まっています。