「PTAのお金が学校の“第二の財布”として使われているのでは?」――ある大阪府岸和田市の市立中学校で起きた出来事は、多くの保護者に衝撃を与えました。公費ではなく、保護者が毎月積み立てる会費が校舎改修に充てられていたのです。
2022年度、同中学校の多目的室の床は老朽化のため改修が必要とされていました。しかし市教育委員会は予算上の優先度が低いと判断し、整備を見送り。その結果、PTA会費約80万円を充てて床がフローリング化されました。総会での承認もなく、本来必要な「寄付採納」手続きも踏まれていませんでした。やがて一部の保護者から疑問の声が上がり、問題が表面化しました。
この記事では、この事件をきっかけに浮き彫りとなった「PTAと学校予算の境界線」を探ります。読み終える頃には、単なる一つの事例を超えて、全国的に広がる問題の構造や今後の改善策、そして保護者や市民として取るべき行動が見えてくることでしょう。
- 物語的要素:大阪・岸和田市の中学校がPTA会費で校舎改修
- 事実データ:総額約80万円、承認・寄付手続きとも不備
- 問題の構造:自治体予算不足とPTA依存体質
- 解決策:自治体責任の明確化と手続き透明化
- 未来への示唆:地域社会と学校の健全な協働関係の再構築
2022年度に何が起きたのか?
岸和田市立中学校では、多目的室の床が老朽化し、汚れが目立っていました。生徒が利用する場所であり環境改善が望まれましたが、市教育委員会は「安全性に支障なし」と判断し予算化を見送りました。
そこで、学校側とPTA役員が協議し、「創立周年の記念」としてPTA会費を充当して改修を実施。この費用は総額約80万円に達していました。ただし、臨時総会で会員に諮ることも、市財産とするための寄付採納手続きも行われなかったのです。
年月 | 出来事 |
---|---|
2022年春 | 多目的室床の劣化が深刻化 |
2022年夏 | 市教委が整備を見送り |
2022年秋 | PTA会費80万円で改修実施 |
2023年夏 | 不備判明、校長とPTA会長が謝罪文書配布 |
すべては「限られた予算」から始まった
背景には、市の教育予算の制約があります。法的には学校運営経費は設置自治体が負担すべきですが、現実には老朽化する校舎や設備に十分な予算が配分されず、保護者が埋め合わせる構図が温存されてきました。
一部の自治体では「保護者寄付」が慣習化し、地域格差の要因にもなっています。こうした歴史的背景が、今回のような問題の温床になっているのです。
数字が示す依存の深刻さ
全国では、PTA資金が学校の設備補填に使われる事例は散見されます。以下の統計は、名古屋市での調査事例です。
年度 | 不備件数 | 総額 | 主な物品 |
---|---|---|---|
2018〜2022 | 77件 | 約3200万円 | エアコン・プロジェクター等 |
これは単なる一地域の問題ではなく、全国的に繰り返されている構造的課題です。
なぜPTAだけが突出して負担を担うのか?
保護者は「子どものためならば」と出費を受け入れてしまいがちです。一方、自治体は厳しい財政を理由に設備投資を抑える。その結果、PTAが「公費で補うべきもの」を事実上代替する役割を担わされてきました。
「学校設置者である自治体が運営経費を負担するのが大原則。しかし予算不足が積み重なり、PTAが“穴埋め”役を果たす構図が常態化している。これは地方財政法の趣旨に反する。」(教育行政学者)
SNS拡散が生んだ新たな波紋
この問題は当初は校内のやり取りで収束しかけましたが、SNS上で拡散されたことで一気に全国的な注目を浴びました。匿名投稿から「我が子の学校でも同じことが起きているのでは」という不安が増幅し、多様な地域から同様の事例が報告される現象につながりました。
政府・教育委員会はどう動いたのか
岸和田市教育委員会は口頭での注意にとどめましたが、今後の再発防止策として「寄付採納手続き研修」の義務化が議論されています。また、文部科学省は過去にも「安易に保護者負担に転嫁するのは不適当」と通知しており、制度的対応が進む可能性もあります。
まとめ・展望
「PTAは第二の財布なのか?」という問いかけは、岸和田市の事例を超えて全国的な教育財政問題を映し出しました。データが示すのは、一時的な偶発事例ではなく、長年積み重ねられてきた制度的ゆがみです。
解決には、自治体が学校運営に必要な予算を確保し、保護者に頼らないしくみを整えることが不可欠です。さらに、PTAの資金利用は必ず透明性を持ち、会員の納得を得た上で行われるべきでしょう。
子どもたちの教育環境を守る主体は、保護者だけでなく社会全体です。この問題を契機に、地域と学校と行政が健全に役割を分担しあう未来が拓かれることを期待します。