AI教材開発企業「すららネット」と不登校ジャーナリストによる調査で、不登校の児童生徒の63.5%が「ネット出席」制度を知らない実態が明らかになった。2025年8月から10月にかけて実施された調査では、児童生徒156人と保護者244人から回答を得た。
2005年度に始まったこの制度は、不登校の子どもがタブレット端末などでオンライン学習に取り組んだ場合に出席扱いとする仕組みだが、保護者の26.6%も認知しておらず、学校からの説明を受けていない児童生徒は67.9%に上る。一方で利用者の47.2%が「前向きになった」と回答し、「罪悪感が減った」「自己肯定感を得られた」という効果も報告されている。周知の徹底が急務だ。
不登校児の6割超が知らない「ネット出席」 すららネットが実態調査で明らかに
2025年11月6日、毎日新聞が報じた調査結果は、日本の不登校支援における深刻な情報格差を浮き彫りにした。AI教材を手がける「すららネット」(東京都)と不登校ジャーナリストの関係者らが2025年8月から10月にかけて実施した調査によると、不登校の児童生徒の63.5%が「ネット出席」制度について「名前は知っているが内容は知らない」または「聞いたことがない」と回答した。この制度は2005年度に開始されてから20年近く経過しているにもかかわらず、当事者への周知が進んでいない実態が明らかになった。
調査は同社の教材を利用する不登校の小中学生と保護者を対象にオンラインで実施され、児童生徒156人と保護者244人から有効回答を得た。保護者についても26.6%、つまりおよそ4人に1人が制度を知らないと回答しており、家庭への情報提供が不十分であることが示された。さらに深刻なのは、学校からの説明や提案を受けたことがないと答えた児童生徒が67.9%、保護者が86.5%に達したことだ。
「ネット出席」とは、不登校の児童生徒がタブレット端末などのデジタル端末を利用して学習した場合に、校長の判断で出席扱いとする制度である。保護者と学校の連携、訪問による対面指導の実施などを条件としており、正式には「IT等を活用した自宅学習の出席扱い」と呼ばれる。しかし一般には「ネット出席」という通称で知られており、不登校児童生徒の学習機会確保と心理的負担軽減を目的としている。
すららネットの担当室長は「子どもや保護者に加え、教員にも制度が知られていない実態がある。自治体などに活用を働きかけていきたい」とコメントしており、教育現場における制度の認知度向上が喫緊の課題であることを指摘した。文部科学省が設けた制度でありながら、現場への浸透が進んでいないという皮肉な状況が浮かび上がっている。
📌 調査結果の要点
- 不登校児童生徒の63.5%が「ネット出席」制度を知らない
- 保護者の26.6%(約4人に1人)も認知していない
- 学校から説明を受けていない児童生徒67.9%、保護者86.5%
- 申請を断られた経験:児童生徒8.3%、保護者12.7%
- 利用者の47.2%が「前向きになった」と回答
- 調査期間:2025年8月〜10月、回答者:児童生徒156人、保護者244人
調査の概要と背景
| ■ 調査名称 | 不登校児童生徒の「ネット出席」制度認知度調査 |
| ■ 実施期間 | 2025年8月〜10月 |
| ■ 実施主体 | すららネット(AI教材開発企業)、不登校ジャーナリスト |
| ■ 調査対象 | すららネット教材を利用する不登校の小中学生とその保護者 |
| ■ 有効回答数 | 児童生徒156人、保護者244人 |
| ■ 調査方法 | オンラインアンケート |
| ■ 主な調査項目 | 制度認知度、学校からの説明有無、申請経験、心境変化など |
| ■ 報道日 | 2025年11月6日(毎日新聞) |
| ■ 制度開始年度 | 2005年度(約20年前) |
2005年度開始「ネット出席」制度の詳細 校長判断で出席認定可能に
「ネット出席」制度は正式には「IT等を活用した自宅学習の出席扱い」と呼ばれ、2005年度に文部科学省の通知によって開始された。不登校の児童生徒がタブレット端末やパソコンなどのデジタル端末を利用して自宅で学習に取り組んだ場合、一定の条件を満たせば校長の判断で出席扱いとすることができる仕組みだ。この制度の背景には、1990年代後半から増加し続ける不登校児童生徒への対応として、多様な学習機会を保障する必要性があった。
制度の適用には複数の条件が設けられている。第一に、保護者と学校との間で十分な連携・協力関係が保たれていることが求められる。第二に、訪問等による対面指導が適切に行われていることが必要だ。第三に、使用する教材が学習指導要領に照らして適切であることが確認されなければならない。第四に、校長が児童生徒の状況を十分に把握し、出席扱いとすることが適切であると判断することが前提となる。
この制度の特徴は、全国一律の基準ではなく、各学校の校長に判断が委ねられている点にある。そのため学校によって運用に差が生じやすく、今回の調査でも「前例がない」「学校に制度がない」という理由で申請を断られた事例が報告されている。児童生徒の8.3%、保護者の12.7%が申請を断られた経験があると回答しており、制度が存在するにもかかわらず活用できないケースが一定数存在することが明らかになった。
文部科学省は2019年に「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知を出し、ネット出席制度の活用を改めて促した。この通知では、ICT等を活用した学習活動を行った場合、一定の要件を満たせば指導要録上の出席扱いとすることが適切であると明記されている。しかし2025年の調査結果が示すように、制度開始から20年、通知発出から6年が経過した現在でも、現場への浸透は十分とは言えない状況だ。
学校からの説明不足が深刻 保護者の86.5%が「説明なし」
調査で最も深刻な結果の一つが、学校からの説明や提案の不足である。「学校からネット出席に関する説明や提案を受けたか」という設問に対し、児童生徒の67.9%、保護者の86.5%が「説明はない」と回答した。つまり不登校の子どもを持つ保護者の9割近くが、学校側からこの制度について何の情報も得ていないのだ。
この背景には複数の要因が考えられる。第一に、教員自身が制度を知らない可能性がある。すららネットの担当室長が「教員にも制度が知られていない実態がある」と指摘しているように、現場の教員が文部科学省の通知内容を十分に把握していないケースが少なくないと推測される。第二に、校長の判断に委ねられた制度であるため、学校によっては積極的に活用する姿勢を持たない場合がある。第三に、対面指導の実施などの条件を満たすための体制が整っていない学校もあると考えられる。
申請を断られた経験のある保護者や児童生徒からは、「前例がない」「学校に制度がない」といった説明を受けたという報告があった。これらの理由は、制度が文部科学省によって定められているにもかかわらず、学校側が積極的に取り組む姿勢を持っていないことを示している。「前例がない」という理由は特に問題であり、誰かが最初に申請しなければ永遠に前例は生まれないという矛盾を抱えている。
| ■ 質問項目 | ■ 児童生徒 | ■ 保護者 |
|---|---|---|
| 制度を知らない(名前は知っているが内容不明、または聞いたことがない) | 63.5% | 26.6% |
| 学校から説明や提案を受けていない | 67.9% | 86.5% |
| 申請したが断られた経験がある | 8.3% | 12.7% |
| 利用して「前向きになった」 | 47.2% | 71.0% |
利用者の約半数が「前向きになった」 制度活用の効果と課題
一方で、実際にネット出席制度を利用した児童生徒と保護者からは、肯定的な評価が多く寄せられている。「利用後の心境変化」について尋ねたところ、児童生徒の47.2%、保護者の71.0%が「前向きになった」と回答した。特に保護者の7割以上が前向きな変化を感じているという結果は、この制度が不登校児童生徒とその家族に与える心理的効果の大きさを示している。
調査の自由記述欄には、利用者の生の声が数多く寄せられた。「学校に行けない罪悪感が減った」という児童生徒の声は、不登校の子どもたちが日々感じている心理的負担の重さを物語っている。学校に行けないことへの罪悪感は、子どもの自己肯定感を大きく損ない、さらなる心理的孤立を招く悪循環を生む。ネット出席が認められることで、「自分も学習している」「出席として認められている」という実感が得られ、罪悪感が軽減されるのだ。
「自己肯定感を得られた」という声も複数寄せられた。不登校の期間が長くなるほど、子どもは「自分は何もできていない」「他の子どもたちに遅れている」という焦燥感に苛まれる。しかしオンライン学習に取り組み、それが出席として認められることで、「自分なりのペースで前に進んでいる」という実感が生まれ、自己肯定感の回復につながるという。
保護者からは「知っていれば子どもを追い詰めず安心できる選択肢を与えられた」という切実な声が上がった。不登校の子どもを持つ保護者は、「学校に行かせなければ」というプレッシャーと、「無理に行かせると悪化する」という恐れの間で苦しむ。ネット出席という選択肢を知っていれば、「学校には行けなくても、オンラインで学習すれば出席になる」という第三の道を提示でき、親子双方の心理的負担を軽減できるというのだ。
「出席扱いによって子どもの将来が変わるので、全国的に標準化してほしい」という要望も寄せられた。現行制度では校長の判断に委ねられているため、学校によって対応が異なる。ある学校では認められても、転校先では認められないというケースも起こりうる。この不平等性を解消し、全国どこでも同じ基準で利用できるよう標準化を求める声は、制度の公平性という観点から重要な指摘である。
すららネットが取り組む不登校児童生徒への支援
今回の調査を実施した「すららネット」は、AI技術を活用した適応学習教材「すらら」を開発・提供する企業である。同社の教材は、児童生徒一人ひとりの理解度に応じて学習内容が自動調整される特徴を持ち、不登校や発達障害のある子どもたちの学習支援に活用されている。全国の学校や学習塾、家庭で利用されており、特に不登校児童生徒の学習支援ツールとして高い評価を得ているという。
同社の子どもの発達支援室長は、今回の調査結果を受けて「子どもや保護者に加え、教員にも制度が知られていない実態がある」と指摘した。教育現場における制度認知度の低さは、文部科学省の政策が現場に届いていないという日本の教育行政の課題を浮き彫りにしている。同室長は「自治体などに活用を働きかけていきたい」と述べ、民間企業の立場から教育委員会や学校に対して制度の周知と活用促進を働きかけていく意向を示した。
すららネットのような民間教育事業者が、不登校児童生徒の学習機会確保において重要な役割を果たしている現状がある。学校現場だけでは対応しきれない多様なニーズに対し、ICT技術を活用した柔軟な学習支援を提供することで、不登校の子どもたちに新たな学びの場を創出している。今回の調査も、単なる市場調査ではなく、不登校支援の実態把握と課題提起という社会的意義を持つものとして実施された。
✅ ネット出席制度の利用条件
- 保護者と学校の連携: 十分な協力関係が保たれていること
- 対面指導の実施: 訪問等による定期的な対面指導が行われていること
- 適切な教材使用: 学習指導要領に照らして適切な教材を使用すること
- 校長の判断: 児童生徒の状況を把握し、出席扱いが適切と判断されること
- 学習記録の保存: 学習内容や時間の記録が適切に保存されていること
制度活用のための具体的ステップ
📊 ネット出席申請から認定までの流れ
STEP 1
制度の確認
学校への相談
STEP 2
学習計画立案
教材選定
STEP 3
申請書類提出
校長承認
STEP 4
学習開始
定期報告
STEP 5
出席認定
記録保存
よくある質問(FAQ)
Q1: ネット出席制度はすべての学校で利用できるのか?
A: 制度自体は文部科学省の通知により全国の小中学校で利用可能です。ただし校長の判断に委ねられているため、学校によって対応が異なります。まずは担任教諭や学年主任、教頭、校長に相談し、学校の方針を確認することが重要です。
Q2: どのような教材を使えば出席扱いになるのか?
A: 学習指導要領に照らして適切な教材であることが条件です。具体的には、すららネットのような適応学習教材、学校が提供するオンライン教材、通信教育教材などが該当します。使用する教材については事前に学校と相談し、承認を得る必要があります。
Q3: 完全にオンラインだけで出席扱いになるのか?
A: いいえ、完全オンラインのみでは認められません。「訪問等による対面指導の実施」が条件の一つとなっており、定期的に教員が家庭訪問したり、保護者が学校に出向いて面談したりする必要があります。オンライン学習と対面指導を組み合わせることが求められます。
Q4: 学校に「前例がない」と断られた場合はどうすればよいか?
A: 文部科学省の通知により全国の学校で利用可能な制度であることを説明し、教育委員会に相談することを検討してください。また、不登校支援団体や専門家のサポートを受けることも有効です。文科省の通知文書を提示し、制度の存在を明確に示すことが重要です。
Q5: ネット出席は高校受験の内申書にどう影響するのか?
A: ネット出席として認められた日数は、指導要録上「出席」として記録されます。内申書には「出席日数」として反映されるため、欠席扱いにはなりません。ただし、高校側がどのように評価するかは各校の判断によります。不登校でも学習に取り組んでいたという実績は、プラス評価につながる可能性があります。
調査結果の全体像まとめ
| ■ 制度の認知状況 | 児童生徒63.5%、保護者26.6%が制度を知らない。周知の徹底が急務 |
| ■ 学校の対応 | 保護者86.5%が学校から説明を受けていない。教員への周知も不足 |
| ■ 申請の障壁 | 保護者12.7%が申請を断られた経験あり。「前例がない」などの理由 |
| ■ 利用者の評価 | 保護者71.0%が「前向きになった」と回答。罪悪感の軽減、自己肯定感の向上 |
| ■ 利用者の声 | 「学校に行けない罪悪感が減った」「自己肯定感を得られた」など肯定的評価 |
| ■ 制度の課題 | 校長判断による運用の差、全国標準化の必要性、教育委員会の役割強化 |
| ■ 今後の展望 | 民間企業や支援団体による周知活動、自治体への働きかけ強化 |
| ■ 社会的意義 | 不登校児童生徒の学習機会保障、多様な学びの選択肢提供、心理的負担軽減 |
20年間知られなかった制度が示す「情報格差」 不登校支援の本質的課題
2005年度に開始されてから20年近くが経過したにもかかわらず、不登校の児童生徒の6割以上が知らないという調査結果は、日本の教育現場における情報伝達の深刻な問題を浮き彫りにした。文部科学省が制度を設け、通知を出しても、それが現場の教員、保護者、そして当事者である子どもたちに届いていない。この「情報格差」は、不登校という困難な状況にある子どもたちから、本来受けられるはずの支援を奪っている。
「学校に行けない罪悪感が減った」「自己肯定感を得られた」という利用者の声は、ネット出席制度が単なる出欠管理の問題ではなく、子どもの心理的健康に直結する重要な支援策であることを示している。不登校の子どもたちは、学校に行けない自分を責め、将来への不安に苛まれている。そうした子どもたちに「あなたの学習は認められている」「あなたは前に進んでいる」というメッセージを送ることができる制度が、なぜこれほど知られていないのか。
「知っていれば子どもを追い詰めず安心できる選択肢を与えられた」という保護者の言葉は、情報を知らないことがもたらす二次的被害の深刻さを物語っている。不登校の子どもを持つ保護者は、「学校に行かせなければ」というプレッシャーと、「無理強いして悪化させてはいけない」という恐れの間で板挟みになる。ネット出席という第三の選択肢を知っていれば、親子関係の悪化を防ぎ、子どもの学習機会を保障できたかもしれないのだ。
今回の調査が投げかける問いは、単なる制度周知の問題にとどまらない。なぜ教員自身が文部科学省の通知を知らないのか。なぜ学校は「前例がない」という理由で制度活用を拒むのか。なぜ教育委員会は各校への制度普及を徹底しないのか。これらの問いは、日本の教育行政における縦割り構造、現場への情報伝達の脆弱性、変化を嫌う学校文化といった、より根深い課題を指し示している。
すららネットのような民間企業や不登校支援団体が、行政に代わって制度の周知と活用促進に取り組んでいる現状は、公教育の限界を示すと同時に、多様なアクターの協働による支援体制の可能性も示している。文部科学省、教育委員会、学校、民間企業、支援団体、そして保護者が連携し、不登校の子どもたちが必要な情報と支援にアクセスできる環境を整備すること。それが今、強く求められている。20年間埋もれていた制度を掘り起こし、本当に必要な子どもたちに届けること。そこから、真の不登校支援が始まる。
💡 ネット出席制度について相談できる窓口
制度の利用を検討している場合、以下の窓口に相談できます:
- 学校: 担任教諭、学年主任、教頭、校長
- 教育委員会: 市区町村教育委員会の学校教育課、指導課
- 教育支援センター(適応指導教室): 各自治体の不登校支援機関
- 不登校支援団体: 全国不登校新聞社、登校拒否・不登校を考える全国ネットワークなど
- すららネット: 子どもの発達支援室(教材利用者向け相談窓口)
制度の存在を知らない学校もあるため、文部科学省の通知文書を持参して相談することをおすすめします。
