「その写真、本当に“自分の子”ですか?」——SNSで拡散された一枚の“エコー写真”が、恋人との関係、家族、そしてお金をめぐる深刻なトラブルへと発展するケースが報じられています。フリマアプリに並ぶ“エコー写真”の出品は、本当に許されるべきものなのでしょうか。
2025年9月1日から、メルカリは「胎児のエコー写真およびそれに類するもの」を出品禁止とし、該当商品を順次削除対象にすると発表しました。背景には、虚偽の妊娠申告や金銭要求などの悪用懸念が指摘されてきた現実があります。
本記事では、出品禁止の経緯と意味、想定される法的リスク、SNS時代ならではの拡散メカニズム、そしてユーザー・プラットフォーム双方が取るべき対策まで、物語とデータの二つのレンズで読み解きます。
- メルカリは胎児エコー写真の出品を禁止、2025年9月1日以降は順次削除対象へ
- 悪用懸念:虚偽の妊娠申告と金銭要求などで「詐欺」「強要」に問われ得る
- 法的リスク:詐欺罪(刑法246条)、強要罪(223条)などに該当しうる
- SNS拡散で“証拠らしさ”が増幅、画像の流用や出所不明リスクが高い
- 対策の核心:プラットフォームの削除・啓発、ユーザーの真偽確認・記録保存
出品禁止発表の舞台裏に何があったのか?
ある日、匿名の相談が寄せられます。「中絶費用を支払ったが、後から見せられたエコー写真が他人のものだとわかった」。表面上は“恋人同士の問題”に見えても、実際には画像の流用を起点とする金銭トラブルであり、被害額、心理的ダメージともに小さくありません。
出品プラットフォームには、法令や独自ガイドラインに基づく「禁止出品物」の枠組みがあります。今回、メルカリは胎児エコー写真等を「不適切なもの」に該当すると判断し、削除対象としました。これは単なる“ルール変更”ではなく、画像の真正性を基点とした被害抑止への踏み込みです。
項目 | 内容 |
---|---|
発表日 | 2025年8月25日(再掲) |
対象 | 胎児のエコー写真およびそれに類するもの(メルカリ/メルカリShops) |
措置開始 | 2025年9月1日以降、順次削除対象 |
判断根拠 | 「不適切と判断されるもの」に該当(ガイドライン) |
背景 | 虚偽申告や金銭要求への悪用懸念、画像の流用/ねつ造リスク |
すべては“画像の真正性”から始まった
“画像一枚”が、なぜここまで重大な問題を生むのか。鍵は“真正性(オリジナルであること)”にあります。SNSやフリマアプリでは、流用・転載・加工が瞬時に行われ、出所が不明確な画像が“もっともらしい証拠”として振る舞いがちです。
エコー写真は医療情報というセンシティブな側面が強く、私的領域に深く入り込みます。悪用の動機が「お金」「関係の圧力」「社会的な立場」など多面的であるほど、画像の説得力は交渉材料として濫用されやすく、故にプラットフォーム規約の明確化が必要とされてきました。
数字と条文が示す“偽装妊娠”の法的リスク
虚偽の妊娠報告に他人のエコー画像を用い、金銭や行為を要求した場合、刑法上の複数リスクが想定されます。代表例は次の通りです。
「他人のエコー画像を用い、慰謝料や中絶費用などの名目で金銭を得れば詐欺罪(刑法246条1項・10年以下の拘禁刑)に該当し得ます。『○○しなければ妊娠を公表する』等と迫れば強要罪(刑法223条・3年以下の拘禁刑)も成立しうる。法的リスクは小さくありません。」
※個別案件は事実関係で結論が変わります。本稿は一般情報であり、法律相談ではありません。
想定シナリオ | 主要リスク | 成立のポイント |
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他人のエコー画像で金銭要求 | 詐欺罪 | 欺罔行為+処分行為+財産的損害の因果関係 |
「従わねば公表」と迫る | 強要罪 | 畏怖・困惑を生ぜしめ、義務なき行為を行わせる |
画像の無断転載・流用 | 規約違反・権利侵害のおそれ | ガイドライン違反、著作権等の侵害リスク |
なお、エコー画像の提示で相手に心理的ダメージのみ与える場合、直ちに犯罪が成立しないこともありますが、状況次第で名誉やプライバシーの問題等が絡む可能性もあり、安易な利用は極めて危険です。
なぜ“エコー写真”が悪用の標的になるのか
対立軸は「当事者の信頼関係」vs「画像の説得力」です。妊娠という重大事実は相手の意思決定(同棲・結婚・中絶費用の負担など)を左右しやすく、画像一枚が“不可逆的な承諾”を引き出すスイッチになり得ます。心理的・文化的に「子」「家族」に関わるテーマは過度にセンシティブで、相手は理性的判断より“罪悪感”や“責任感”で動きやすいのです。
結果として、証拠の真正性を確かめるプロセス(医療機関での確認、診断書の有無、時点整合性のチェック)が後回しになり、悪用が成立しやすくなります。
SNS拡散が生む“もっともらしさ”と連鎖
SNSでは、加工アプリで個人情報を消した画像が瞬く間に再流通します。コンテクスト(撮影日時、施設、本人確認)が切り離された画像は、見る側の“補完想像”を促し、もっともらしさを過大評価させます。
さらに、スレッドやまとめサイトで“手口”が共有されると、類似の模倣が増える温床になります。プラットフォームは通報経路の明確化と人力・自動のハイブリッド検知を強化し、ユーザーは「画像だけで判断しない」リテラシーを身につける必要があります。
プラットフォームとユーザーはどう動いたか/どう動くべきか
プラットフォーム側は「不適切なもの」の定義にエコー写真等を含め、ガイドラインの明文化と削除運用を開始。並行して、画像の無断使用・転載、手元にない商品の出品など既存の禁止行為ガイドも再周知しています。
ユーザー側は、万が一“請求や要請”を受けた場合、(1)第三者機関・医療機関での確認(時点整合性・本人性)、(2)支払い前の証拠保全(やり取り・振込の記録)、(3)専門家相談(警察・弁護士等)の三点を徹底してください。
なお、同意なく他人の画像を使う行為はプラットフォーム規約に抵触し、取引キャンセル・商品削除・利用制限等の措置対象となり得ます。
ポイント:虚偽申告や金銭要求等の抑止、ユーザー保護、医療情報のセンシティブ性。
注意:ガイドライン違反は出品削除や利用制限の対象になり得ます。
実務:振込明細、メッセージ履歴、提示画像のメタ情報など、確かな記録が鍵です。
要点:具体的事情(要求内容、威迫の有無、金銭授受)が重要。
プラットフォーム活用:違反出品の通報機能、ブロック、取引メッセージの保存。
まとめ——“画像社会”を生き抜くために
出品禁止はゴールではなくスタートです。画像の真正性をめぐる攻防は、生成AIや加工技術の進化で一段と難度が増します。だからこそ、プラットフォームの削除運用とユーザーのリテラシー強化は両輪で進める必要があります。
「信じたい気持ち」を悪用させない——そのための第一歩は、画像一枚に過剰な説得力を与えず、確認・記録・相談の三原則を習慣化すること。ルール整備と市民的知恵の積み上げが、健全な取引と人間関係を守ります。