就活で広がる「いちいち感謝」現象とその功罪

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「質問ありがとうございます」――就職面接やビジネスの場で、こうした一言を耳にする機会が増えています。かつては特別な場面で使われていた感謝のフレーズが、いまや質問のたびに繰り返される“口癖”となりつつあるのです。

一見すると礼儀正しく、相手を敬う姿勢にも見えますが、現場の反応は必ずしも好意的ではありません。「丁寧すぎて鬱陶しい」「ありがたみがなくなる」という声も上がっています。

なぜこのような“いちいち感謝”が広がったのか。背景には、就活マナー指導や若者の対面コミュニケーション力の変化がありました。

この記事では、その現象をデータと人間ドラマを交えて分析し、適切な言葉遣いの在り方を探っていきます。

読み終える頃には、「ありがとうございます」という言葉が本来持つ力を、どんな場面でどう使うべきか、再確認できるはずです。



  • 物語的要素:就職面接で質問のたびに繰り返される「ありがとうございます」
  • 事実データ:面接練習・取材現場での多発、SNSや記事コメントでも賛否が噴出
  • 問題の構造:感謝の乱用によるわずらわしさ、誤ったマナー指導
  • 解決策:場面に応じた言葉のバリエーション、感謝の真意を伝える工夫
  • 未来への示唆:社会全体のコミュニケーション教育の見直し


目次

就活現場で広がる「質問→感謝」のルーティン



面接で志望動機を問われた学生が、「ありがとうございます。御社の理念に共感して……」と答える。自己PRを聞かれても、課外活動の体験を問われても、まずは「ありがとうございます」。

大学や企業研修の場で面接練習を指導する講師たちは、10年ほど前からこの言葉遣いの変化を感じてきました。背景には「相手に感謝を示すのは礼儀」という意識と、「一拍置いて考える時間を稼ぐ」という実用的理由があるといいます。

実際に取材中、20分間で7回も「ありがとうございます」を繰り返した人もいました。聞き手には丁寧さと同時に、違和感やくどさも伝わってしまいます。



広がりの背景:就活指導と不安解消のための言葉



学生に「質問を受けたらまず『ありがとうございます』と言いなさい」と指導する大学職員が実際に存在します。理由は「丁寧に見えるから」「答えを考える間を稼げるから」。

一方で、社会人の現場でも同様の口癖が拡大。家電量販店の接客やラジオ番組のゲスト発言など、さまざまなシーンで「ありがとうございます」が多用されるようになりました。

コロナ禍以降の対面機会減少も影響しています。若い世代が会話の「型」を失い、不安を補うために少数の「安全ワード」に頼る傾向が強まっているのです。



数字と声が示す「鬱陶しさ」の実態



AERA DIGITALの記事には2500件を超えるコメントが寄せられ、多くは「丁寧を通り越して不自然」「ありがたみが薄れる」といった否定的意見でした。

SNSでも「面接で何度も言うと逆効果では」「就活マナーの弊害」という投稿が拡散。感謝の言葉自体は否定されないものの、過剰使用による価値の希薄化が浮き彫りとなっています。

場面「ありがとうございます」使用回数印象
オンライン取材(20分)7回丁寧だが強い違和感
就職面接練習質問ごとに1回形式的で鬱陶しいと指摘
接客現場質問対応のたび過剰なへりくだりに見える


なぜ「いちいち感謝」は鬱陶しく感じられるのか?



言葉自体は礼儀正しいはずなのに、なぜ不快感につながるのでしょうか。専門家は「必要のない場面で繰り返すから」と指摘します。質問が前提の場(面接や取材)では、毎回の感謝がかえって不自然に響くのです。

また、受け手は「とりあえず丁寧にしておけばいい」という安易さを感じ取り、本当の感謝が伝わらなくなってしまいます。これが“鬱陶しさ”の正体だといえます。

専門家コメント:
「言葉は文脈と回数で意味が変わります。感謝は多すぎると逆効果。場面に応じてバリエーションを持たせることが、自然で信頼される会話につながります。」


マニュアル化と便利フレーズ依存のリスク



「ありがとうございます」多用の背景には、マニュアル的な言葉遣い教育があります。就活マナー本や研修で「とりあえず言っておけば無難」とされるうちに、自然なコミュニケーションが損なわれていくのです。

社会人における「〜させていただきます」の乱用とも同根で、便利な言葉に依存することで本来の伝達力が失われるリスクがあります。



指導のあり方はどう変えるべきか



大学のキャリアセンターなどでは、学生に形式的な「感謝の口癖」を教えるのではなく、質問の意図を理解し、的確に答える力を育てることが求められます。

代替表現として「〜についてお尋ねいただきありがとうございます」「それは〜という視点でお答えできます」といった多様な受け答えを練習することが望ましいでしょう。



Q1. なぜ若者が「ありがとうございます」を多用するのですか?
A1. 丁寧に見せたい意図や、答える前の“時間稼ぎ”が背景にあります。

Q2. 不快に思われるのはなぜ?
A2. 質問が当たり前の場で繰り返すと、形式的でありがたみがなくなるからです。

Q3. 適切な場面はありますか?
A3. 記者会見や研修での質疑応答など、質問者に敬意を示す必要がある場面では有効です。

Q4. 代わりにどう言えばいいですか?
A4. 「〜についてお尋ねいただきありがとうございます」や「それは〜という視点でお答えします」などバリエーションが効果的です。

Q5. 今後どう変わっていきますか?
A5. マナー教育が見直され、形式よりも自然で誠実なコミュニケーションが重視されると予測されます。


まとめ:感謝は“口癖”ではなく“真心”で



「ありがとうございます」は本来、人間関係を温かくする力を持つ言葉です。しかし、場面を選ばず繰り返せば、逆にわずらわしさや不信感を招いてしまいます。

就活やビジネスの現場で大切なのは、言葉の多さではなく、気持ちの伝わり方。感謝は口癖ではなく、必要な場面で真心を込めて伝えるものです。

“いちいち感謝”の時代を超えて、自然で誠実な対話力が評価される未来へ向かうことが求められています。

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