「子どもの投げ銭280万円は取り消せるのか?」。動画配信アプリで小学生が多額の課金を行い、返金を求めて企業を訴える事態が発生しました。
京都市の10歳の男児が、兄のスマートフォンを通じてTikTok上でコインを購入し、配信者に「投げ銭」を行った総額は約370万円。他のゲームアプリなども含めると約460万円に達しました。
両親が気づいて返金を求めたものの、一部の返金にとどまり、事業者側の対応に不満を抱いた家族は、アプリ運営会社と決済を担った外資系IT企業を相手取り、京都地裁に提訴しました。本稿では、事件の経緯、法的根拠、社会的背景を整理し、今後の消費者保護のあり方を考えます。
この記事のポイント
- 小学生が兄のスマホで投げ銭を行い課金総額は約460万円に
- 返金されたのは一部の90万円のみ
- 未成年者契約の取消権を根拠に提訴
- 年齢確認の仕組みの不備が争点に
- 子どもの高額課金を防ぐ制度的課題が浮き彫りに
京都地裁に持ち込まれた「投げ銭280万円返金訴訟」
訴状によると、男児は2023年6月から8月にかけ、兄2人のスマートフォンを使い、アプリ内で「コイン」を購入して配信者に投げ銭を行いました。
この間に使った金額はTikTokだけで約370万円、他のゲームアプリも合わせると約460万円に。両親は消費生活センターへ相談し、決済提供会社に返金を求めましたが、返金されたのは約90万円にとどまりました。運営会社への問い合わせには返答がなかったといいます。
時期 | 出来事 | 金額 |
---|---|---|
2023年6〜8月 | TikTok上でのコイン大量購入・投げ銭 | 約370万円 |
同期間 | 他のゲームアプリ課金 | 約90万円 |
合計 | — | 約460万円 |
すべては「未成年の契約」から始まった
民法では、未成年者が親の同意なく行った契約は取り消すことができます。これは未成熟な判断力を守るための仕組みです。ただし、成人と偽って契約した場合は取り消しが制限されます。
今回のケースでは、年齢確認が不十分なまま課金が可能となっていた点が争点です。仮に「成人」と入力していたとしても、サービス提供者が責任をもって確認を行っていなかったとすれば、取消権が認められる可能性があります。
数字が示す課金被害の深刻さ
未成年による高額課金のトラブルは、全国の消費生活センターに多数寄せられています。国民生活センターによると、近年はゲームやライブ配信サービスでの課金額が数十万〜数百万円に達する事例も増加しています。
年度 | 未成年課金相談件数 | 特徴 |
---|---|---|
2022年度 | 約2,000件 | ゲーム・配信アプリでの高額課金 |
2023年度 | 増加傾向 | 投げ銭・アイテム購入が中心 |
なぜ未成年の「投げ銭」が社会問題化するのか?
- 家庭の管理困難:スマホやタブレットが個人利用され、保護者の監督が及びにくい。
- 年齢確認の不備:サービス提供者が形式的なチェックにとどまり、実効性を欠く。
- 心理的要因:子どもは「推し」への応援で金銭感覚を失いやすい。
- 制度的遅れ:返金対応や利用制限に明確なルールが整備されていない。
「未成年の高額課金は、民法上の取消権を超えて“社会全体での予防”が不可欠です。年齢確認システムの強化と、家庭・学校での金銭教育の両輪が必要です。」
SNS時代の課題:子どもの「投げ銭文化」と消費者保護
ライブ配信やSNSの普及により「投げ銭文化」は広がっています。応援が即時に可視化され、承認欲求や熱狂と結びつくことで、子どもでも高額支出に走りやすい仕組みになっています。事業者側の対策が不十分なまま拡大すれば、同様の訴訟が各地で増える可能性もあります。
制度はどう動くべきか
行政はすでに「青少年のネット利用と課金トラブル」に注目し、ガイドラインの整備を進めています。今後は事業者に対して、強固な年齢確認、利用上限設定の義務化、返金対応ルールを求める声が高まるでしょう。
- アプリ利用前に「課金上限」を設定する
- 利用端末のパスワード管理を徹底する
- 定期的に利用明細を確認する
- 子どもに「お金の重み」を伝える家庭教育
- 不審な課金はすぐに消費生活センターに相談
まとめ:子どもの課金トラブルを防ぐために
今回の訴訟は、未成年による高額課金問題を浮き彫りにしました。民法の未成年取消権を実効性あるものにするためには、事業者側の年齢確認や利用制限が不可欠です。
子どもを守るのは家庭だけでなく、社会全体の仕組みです。教育、制度、企業責任の三位一体で課題に向き合うことが、同じ悲劇を繰り返さないための第一歩です。