井上咲楽の不登校と自己肯定感回復の物語

「学校に行けない自分はダメだ」――そう思い込み、心を閉ざしてしまう若者は少なくありません。孤立や誹謗中傷を経験した時、人はどのようにして自分を取り戻すのでしょうか。

高校時代に人間関係が崩れ、不登校を経験したある若者は、外の「もう一つの世界」との出会いによって自己肯定感を取り戻しました。その姿は、今まさにしんどさを抱える人にとって大きなヒントになるはずです。

この記事では、その体験をたどりながら、社会が抱える「自己肯定感の低さ」という課題、データで見る現状、そして私たちができるサポートの形を探っていきます。読み終えたとき、あなた自身や大切な誰かに寄り添うための視点がきっと見つかるでしょう。

高校時代に何が起きたのか？

栃木の山あいで育った一人の少女は、小さい頃から「テレビに出たい」という夢を抱いていました。中学では部活動や友人関係に恵まれ、いじられキャラとして笑いを誘いながら自信を積み重ねました。卒業文集には「将来はお笑い芸人」と綴るほどに、自分らしさを発揮できていたのです。

しかし、高校進学後に状況は一変します。新しい環境で自己紹介に失敗し、同級生から距離を置かれるようになり、次第に孤立。「ブス」と言われた心の傷は深く、人を信じられなくなり、学校に行けない日々が続きました。

それでも夢をあきらめず、芸能事務所のオーディションに挑戦。高1の夏、特別賞を受賞し芸能活動を開始しました。学校に居場所を見出せなかった彼女を支えたのは、外の世界で出会った「楽しそうに働く大人たち」の姿でした。

時期	出来事	心の状態
中学時代	バレーボール部で協調性を学び、いじられキャラで人気に	自信を持ち、明るく振る舞えるように
高校入学	新しい環境で孤立、同級生からの心ない言葉	人を信じられず、不登校気味に
高校1年夏	芸能事務所のオーディションで特別賞を受賞	「外の世界」への希望が芽生える

すべては孤立から始まった

不登校の背景には「人間関係のトラブル」「自尊心の低下」が密接に関わっています。特に思春期は「友人との比較」「容姿や性格への評価」に強く影響され、否定的な言葉を浴びることで心の防御反応が強まり、不信感や反抗的態度へとつながります。

当事者は「自分は劣っている」という思い込みにとらわれ、狭い世界で苦しみを抱え込んでしまいます。しかし外の世界と出会うことで、価値観が変化するケースは少なくありません。井上さんにとって芸能界は、その救いの場でした。

数字が示す不登校の深刻さ

文部科学省の調査によれば、不登校の小中学生は近年増加の一途をたどっています。特に中学から高校への進学期は、急激な環境変化による孤立が目立ちます。また内閣府の調査では、日本の若者の自己肯定感は諸外国と比較して極めて低い水準にあります。

年度	不登校児童生徒数（小中）	前年比
2015	126,000人	+4.2%
2020	196,000人	+7.3%
2023	244,940人	+10.4%

なぜ日本の若者だけが自己肯定感を失いやすいのか

日本社会では「空気を読むこと」「和を乱さないこと」が重視されます。その結果、少数派や異質な存在は否定されやすく、孤立の要因となります。特に学校という閉じた環境では、価値観の多様性が受け入れられにくい傾向が強く見られます。

心理学的には、承認欲求が満たされないことが自己肯定感の低下を招きます。文化的には「謙虚さ」が美徳とされる一方で、過剰な自己抑制が生きづらさにつながっているのです。

SNS拡散が生んだ新たな脅威

SNSは孤立した若者にとって心の拠り所になる一方、誹謗中傷が可視化されるリスクを伴います。学校内だけでなく、オンラインでも否定的な言葉にさらされることで、傷が深まるケースが増えています。

一方で、SNSを通じて多様な生き方を知り、救われる人もいます。デジタル時代は、若者にとって「両刃の剣」なのです。

組織はどう動いたのか

政府や自治体は、スクールカウンセラーの配置やフリースクール支援を強化しています。2023年には不登校特例校の設置も進み、学びの多様性が広がり始めました。

ただし、制度があっても「利用しにくい」「情報が届かない」などの課題は残ります。支援が「選択肢」として自然に認知される社会づくりが求められます。

しんどい自分を責めずに生きるために

高校時代に不登校を経験しながらも、外の世界に救いを見出した一人の若者の姿は、同じように苦しむ人に希望を与えます。自己肯定感の低さは、個人の弱さではなく社会の構造によるもの。だからこそ、社会全体で多様な生き方を受け入れる環境を作ることが大切です。

日記や趣味、外の活動を通じて自分を認める小さな一歩を踏み出すことが、未来を切り開く力になります。私たち一人ひとりがその変化を支える存在になれるのです。